IPO・公募増資の価格決定方法を裏側まで解説

株式投資
IPOや公募増資案件に投資する際、価格はどうやって決まっているのか疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
 
IPOや公募増資、売出し案件に申し込むと、通常、価格決定日に証券会社から連絡があります。
人気があったから高かった不人気だから安かったと説明されるかも知れませんが、これだけだとかなり大雑把な理由です。
 
証券会社の社員でもホントのところを知らない人も多いので、詳細を尋ねてもきちんとした答えが得られない可能性も高いです。
 
IPO、公募増資・売出し案件は、一定のプロセスを踏んで、価格が決まっていきます。

案件のスケジュール感とともに解説していきます。

IPO・公募増資の価格決定プロセス:目論見書価格の算定

IPOや公募増資・売出し案件が証券取引所の承認を受けると、主幹事証券会社を中心に募集プロセスが開始されます。

この時点で初期的な目安として、「目論見書価格」が提示されます。

というより、あらかじめ準備してある目論見書に書いています。

この目論見書価格は、主幹事証券会社のアドバイスを基にして、発行会社が決定します。
目論見書価格を算定する際には、同業種、同規模の上場会社のPER、PBRなどを参考にして、妥当な水準を探ります。
 
例えば、同業種の上場会社数社の平均PERが15倍であり、上場する会社のEPS(一株当たり当期純利益)が100円である場合、下記のように算出します。
PER15倍×EPS100円=1,500円
 
こうして上場準備の段階から、議論の目安となる価格が用意されており、これを機関投資家にぶつけて妥当な価格へ近づけていくのです。

IPO・公募増資の価格決定プロセス:発行会社と機関投資家の面談が組まれる

 
IPO・公募増資の募集プロセスが開始されるとすぐに、主幹事証券会社から機関投資家へ連絡が入ります
案件・募集の開始をローンチと言います。
 
案件のローンチは、通常株式市場が締まる15:00になります。
主幹事証券会社は機関投資家へ概要を伝えると、そのまま発行会社との面談アポイントを取ります
 
この面談が価格決定の肝になり、「ロードショー」と呼ばれます。
 
発行会社の社長、経営陣が、投資家に対して自社の紹介や事業成長性をアピールします。
ロードショーは、3-5営業日程度かけて行われ大体20-30件程度になります。
通常1ミーティング約60分で、一日4-6件程度です。
 
魅力的な案件や注目案件であればロードショー希望投資家が多く、ミーティングできない投資家も多いですし、不人気案件はその逆で枠が埋まりきらず機関投資家からの意見が十分に拾えないこともあります。
 
機関投資家サイドもこのミーティングを参考にして、投資するか否かを決めるので関心ある案件であれば面談を要望します。
 
関心のない案件ははじめから断ることも多いです。
 
発行会社は優良投資家に株主になって貰うことを望みますし、証券会社もいい投資家を優遇したいので大手機関投資家から順に声をかけていきます
 
運用資産規模の小さい投資家は後回しになりますし、ヘッジファンドは発行会社から嫌がられることが多いので声が掛かるのは時間枠が余っている場合の最後の最後です。
 
また、やや余談となりますが、大型のIPO・公募増資案件の場合は、主幹事証券会社が複数になることもあります。共同主幹事と言います。
 
この場合は、各証券会社が15:00になった途端、猛ダッシュで機関投資家に電話をかけまくります。
あらかじめどこの証券会社がどの機関投資家に電話するといった役割分担がされている場合とそうでない場合があり、特に後者の場合は優良投資家を奪い合うように我先にと電話を架けます。
 
業界用語でジャンプボールと呼ばれてますが、投資家からするといい迷惑です。
 
前者の場合や1社主幹事の場合も、ローンチからアポイント完了まで時間がかかると発行会社から頼りなく思われますので、基本は15:00になったら一斉に電話攻勢。
フロアがコールセンター状態になります。

参考>>>機関投資家についてはこちらの記事参照。
【機関投資家の種類】わかりやすく株のプロの世界を解説

IPO・公募増資の価格決定プロセス:機関投資家の意見を踏まえて仮条件を決定

ロードショーの席では、発行会社側の経営陣と機関投資家側のアナリスト、ファンドマネージャーがミーティングを行います。
 
一般的な商談のように、その時々で発行会社側3人、機関投資家側2人であるとか数人同士での会議となります。
 
機関投資家側は事前に目論見書などで予習していますが、改めて経営陣の口から会社紹介やアピールが行われ、その後に質疑応答といった流れが一般的です。
中には、初めから最後まで質疑応答を希望する投資家もいます。
 
ロードショーが終わると、主幹事証券会社は機関投資家のところに連絡を入れて、発行会社の評価やそれを踏まえて妥当な株価水準をヒアリングします。
 
投資家は発行会社側には褒められること以外は直接伝えていませんが、ここで証券会社から本音を聴取します。
 
そして、これを基にして「仮条件」を決めます。
 
なお、公募増資・売出しの場合には、ここでいう仮条件という概念ではなく、マーケットの終値から何%(例3-5%)ディスカウントするかで価格が決まります。ここは読み飛ばして貰っても構いません。
 
当初の目安である目論見価格も価格も参考にしながら、それが高いのか安いのか。
PER何倍程度であれば買ってもいいと考えるか、など。
 
ミーティングでの印象と比較銘柄の水準なども見ながら妥当な水準感を探ります
電話で大体5分-20分程度の会話です。
 
また、この時に機関投資家側も自分の意見を伝えてあげるだけではメリットがないので、
他の投資家の目線がどの程度であるか、案件が人気化しそうかなどについても、投資家と証券会社で意見交換をします証券会社は各投資家からヒアリング内容をシートに纏めて集計し、中心的な水準を把握します。

証券会社はそれを基に仮条件レンジを設定し、発行会社に提案をします。
 
ここで発行会社がOKすれば仮条件が決定することになります。
 
仮条件は、例えば1,300円~1,700円のようにレンジで設定されます。
レンジの幅に決まりはないですが、広すぎるレンジや目論見書価格から大きく離れる条件となるケースは少ないです。
 
仮にそうなってしまうと、目論見書価格が的外れということですからね。

IPO・公募増資の価格決定プロセス:ブックビルディングで実際の需要を確認

 
仮条件が決まると数日間をおいて、需要を集計するブックビルディングを行います。
 
仮条件のレンジの中で、いくらの価格であれば何株買いたいという風に投資家が需要申告をします。
 
ここでの需要状況をみて、仮条件レンジから最終的な価格を決めるのです。
 
公募増資・売出しの場合には、既に上場していますのでIPOのような価格レンジはないですが、
価格決定日(3日間のうちいずれかとなるケースが一般的)の終値から何%ディスカウントであれば買付希望があるかを集計します。
 
ブックビルディング期間は数日ありますが、機関投資家は通常ブックビルディング最終日の締め切り前1-2時間の間に需要申告をします。
 
早くに需要申告をして、自分の水準を他者に参照されない為に、直前に出すのです。
ブックビルディングは、最終日の午前11:00に締め切りが設定されていることが多いです。
 
機関投資家は、数日前から募集している個人投資家の申し込み動向や他の機関投資家の参加可能性を睨みながら購入希望株数と指値/成行を決めて需要を提出します。
 
このとき需要が多ければそれだけ配分されることが難しくなるので、欲しい株数よりも多めに膨らませて需要提出したり、逆にそれ程需要が盛り上がらないと思えば多く配分され過ぎても困るので実際に欲しい株数だけ提出するなどの駆け引きがあります。
この点は個人投資家も同じようにやっていますね。
 
そして、ブックビルディングを締め切った後、最終的な需要を見て最終的な価格が決定されます。
 
IPOであれば公開価格、公募増資や売出しであれば公募価格と呼ばれます。
 
仮条件レンジの、どの価格帯で何株需要があるかを集計すると、ほとんど目線が固まります。
 
発行会社サイドは、需要が見込めるギリギリ高い価格で決めたいところですし、逆に投資家サイドは出来るだけ安く決定して欲しいので、ここで最後のせめぎあいをやります。

主幹事証券会社内で発行会社担当部門と投資家担当部門で最後の話し合い(戦い)が行われます。

主幹事証券会社内で見解が纏まると、発行会社サイドに公開価格を提示して了解を貰えば最終決定です。
 
ここで折り合わない場合は、改めて説得をしたり、場合によっては価格再提示をします。
夜になっても公開価格が決まらないときは揉めていると思って貰ってほぼ正解だと思います。

公募・売出しの場合も同じです。

このような流れで価格は決定され、その後に配分がされます。
これは機関投資家も個人投資家も同じで、配分できる株数を見ながらお客さんを選んで配分されます。
 
対面証券の場合、抽選はごく一部で、基本的に証券会社に決められています。
取引支店があれば、そこの支店長が決めていると思って間違いないと思われます。

IPO・公募増資の価格決定プロセス:まとめ

  • IPOの場合、上場準備の段階から目安となる目論見書価格を算定している。目論見書価格は、同業種、同規模の上場会社の水準を参考にする。
  • 案件が開始されるとすぐに発行会社と機関投資家との面談が設定される。これをロードショーという。
  • ロードショーの後、主幹事証券会社から機関投資家へ電話でヒアリングがある。ここで価格についての意見が集められる。それを集計して仮条件を決める。
  • 投資家の最終的な需要申告であるブックビルディングの結果を見て、最終的な価格が決定する。

参考記事>>>「上場セレモニーの全体像。上場当日の経営陣のスケジュール

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