取締役を辞めたいのに辞められない。
会社が辞めさせてくれなかったり、逃げるなと言われたり、辞めたい時ほど深刻で難しい悩みです。
取締役には大きな責任が伴うため、会社の状況が良くない時ほど辞めたいと考えるのはある意味当然のことです。
個人としての法的、財産的リスクもありますし、キャリアのある人も多いので今まで積み上げてきたものが吹っ飛んでしまうのではないかという不安も抱えていることでしょう。
この記事では、取締役を辞めることができるのか、辞められないのはどういう場合か、法的なリスクに加えて、それ以外の心配事はないのかについて解説していきます。
筆者自身も、会社が抱える危険を考えて、取締役を抜けた経験があります。
そうした点からも過去の自分への導きの意味も込めてお伝えします。
目次
取締役を辞められないケース
そもそも取締役は辞められるのかといえば、任期中であっても基本的に自由に辞められます。
会社と取締役当事者との委任契約で、どちらかが断りをいれれば契約は終了します。
任期満了による退任の場合は、次の期の取締役就任を断ることで契約関係が終了しますし、期中の辞任の場合であってもモラル的な問題は別にしていつでも辞められます。
逆に株主総会の決議によって解任される場合もあります。
但し、様々な理由により自由に辞められない場合があります。
定款の定めに抵触する場合
定款によって取締役の人数が定められています。
何人以上という定めになっていますが、これは会社によって異なります。
取締役会設置会社の場合は、会社法上3人以上の取締役が必要になるため、少なくとも3人以上の人数で定められています。
自社の定款を確認してみましょう。
自身が辞めることによって、取締役の員数を欠く場合には辞めたくても辞められない状態になります。
株主総会において後任の取締役を選任するか、同様に総会で定款変更をするかの対応を取らないと辞めることはできません。
出資契約等で縛られている場合
出資を受けている場合は、個別株主との契約内容で特定の人は自由に辞められなくなっていることもあります。
いわゆるキーマン条項と呼ばれるもので、経営陣の中で重要な人物や創業者に対して、出資後何年間は辞められないと付されていることがあります。
M&Aで会社売却をした場合も同様の条項が入っていることも多いです。
M&Aの買い手からすると、買収してすぐに辞められたのではノウハウ等が浸透しない懸念があり、暗黙知的なものも仕組みとして定着させるため、数年間は留任を求めることがあります。
自身が創業した会社を売却した後に、それまでのオーナー社長から雇われ社長になってしまい、毎日が苦痛で辞めたくて仕方がない元オーナーも結構います。
投融資を受けている場合には、契約書をよく確認する必要があります。
補足:辞任・退任の登記
取締役を辞めた際には、会社側が登記をきちんとしてくれているか確認しましょう。
登記ができて初めて第三者に対して取締役ではないことが証明できます。
取締役を辞めていても登記されていない場合には、古い謄本を見て取締役と勘違いして取引した人がいれば、何かあってもそれに対抗することはできません。
退任登記がなされていることで、善意の第三者に正しい事実を証明することができます。
辞意を示しても取締役を辞められない場合の取り扱い
権利義務取締役
定款上の取締役員数が欠ける場合などで、辞意を表明しても取締役を抜けられない場合、権利義務取締役という扱いになります。
辞意を表明しているので、厳密にいうと正規の取締役ではないと言えますが、権利義務取締役として取締役と同じ責務がついてきます。
後任取締役の選任などで取締役を辞めることができれば、権利義務から解放されますが、それまでは取締役と同様の権利と義務を持ち続けます。
また、辞任の場合は当然このような扱いになりますが、任期満了で退任の場合にも同様に権利義務取締役になってしまうことには注意が必要です。
任期満了となった場合にも、新たな取締役を選任できていない場合には、引き続き権利義務取締役として続けなくてはなりません。
取締役を辞めることの会社法以外の留意点
会社法的な問題は先に述べてきた通りですが、リーガル面以外にもリスクを孕んでいます。
会社が順調な時であればいいのですが、取締役を辞めたい時というのは危機的な状況の時が多いと思います。
そうした状況で取締役を辞任すると、株主、他の取締役、社員、取引先、金融機関などから逃げたと認識されても不思議ではありません。
自分の会社でもない限り、逃げたいから辞任するのは当たり前のことで、危ない時には逃げることも必要だと思いますが、それによって何らか痛手を被る可能性もあります。
それが正しいことかどうかとは関係なく、恨みを買う可能性はあるので、何らかの攻撃を企てられたり、縁が切れたり、大なり小なり何かある可能性には気を付けておいたほうがいいです。
代表取締役が辞任する場合
代表取締役が辞任する場合も、基本的には他の取締役と同様です。
取締役会設置会社の場合は、代表取締役は取締役会において互選によって決められます。
代表取締役を降りるには、取締役会で他の代表取締役をたてる必要があります。
取締役ごと辞任する場合には、他の取締役同様で先に述べてきた通りです。
役員が代表取締役1名の場合には、他の取締役を選任し同時に代表取締役になってもらう形になるでしょう。
株式会社は取締役がいない状態は認められていないため、後任の手当てが必要です。
まとめ
取締役を引き受けるにあたっては、出口のことも少し考えておくことをお勧めします。
大企業で短い任期で取締役が代わっている場合はそこまで心配はいらないと思いますが、定款をよく確認したり、いざという時に脱出もできるように考えておくべきです。
中小企業、スタートアップ企業などは経営がぐらつくことも度々あります。
会社=取締役にほぼ近いですので、あらゆる責任がのしかかってきます。
抱えきれない責任、リスクが襲ってきた場合に、逃げ道があることは大きな安心感になります。
現在、取締役を辞任したい方、次の任期満了で退任できるか心配な方、詰んだと思ってもやりようはあるものです。
ケースによっては、少しアドバイスできることもありますので、宜しければお問い合わせもください。
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