ヘッジファンドってどんな人たちなのか?
教科書的に説明しているサイトはよく見かけますが、実態をイメージできるような説明はほぼ見当たらないです。
この記事では、
ヘッジファンドってよく聞くけど、結局なんなのか?
定義とか運用戦略みたいな形式的なことじゃなくて、身近な仕事レベルで具体的に想像できるように説明して貰わないと腹落ちしない。
という人のために、できるだけ感触が伝わるような解説を目指します。
なので自分の知っていることに絞り、日本で活動しているヘッジファンドにフォーカスして説明します。
私は、10年以上金融の世界にいる中で、ヘッジファンドとも仕事で関わってきましたし、今現在もヘッジファンド出身の方々とお付き合いがあります。
肌身で感じていることを整理して伝えます。
目次
ヘッジファンドとはどんな投資家か
ヘッジファンドは機関投資家のひとつ
ヘッジファンドは、機関投資家のひとつです。
株式市場では、信託銀行(年金を運用)、投資信託、投資顧問、生損保などの機関投資家が活動していますが、ヘッジファンドもそのひとつです。
機関投資家についてよく知りたい場合は、【機関投資家の種類】わかりやすく株のプロの世界を解説をご覧ください。
ヘッジファンドは中小規模の運用会社
ヘッジファンドはひとことで言ってしまえば、株を運用する中小企業です。
社長がいて、その下にファンドマネージャー、アナリストが10人以下くらい。トレーダーが1-2人。
コンプライアンス、総務、アシスタントなどの裏方さんまで入れても20人程度。
30人いれば多いほうです。
タイガー、キャピタル・インターナショナルなどの海外巨大ヘッジファンドは別物ですが、国内で活動しているヘッジファンドは大体上記の規模感になります。
運用の特徴
結論から言うと、多くのヘッジファンドはロング・ショート戦略を採用しています。
ロング=買い。ショート=売り。
株価上昇が見込まれる銘柄は買い、下落を予想する銘柄は空売り。基本はシンプル。
但し、ポートフォリオ全体としてロングとショートの割合に目安を持っています。
ロングが多いファンドをロングバイアス、ショートが多い場合はショートバイアスと呼びます。
それと、ロング、ショートの組み合わせ技で、A銘柄とB銘柄を比較してAが割安、Bが割高と判断する場合には、Aをロング、Bをショートするペアトレードという手法もよく使われます。
似た銘柄で両者の値差を抜くトレードで、例えばトヨタ買い、ホンダ売りのようにセットで商いします。これだけで細かい話しになってしまうので、2銘柄の値差で儲けるトレードもあるとだけ覚えてください。
また、パフォーマンス評価において、よく言われる「絶対収益」を採っています。
単純にいくら儲けたか、損したかで評価します。
対して他の機関投資家は、TOPIXなどのインデックスより良かったかどうかの「相対収益」です。
多くの投資信託も相対収益を基準にしています。
ある意味ヘッジファンドのほうが清々しい・・・かも知れません。
運用の特徴でもう少しだけ。
運用戦略はロング・ショートだけなのか、と言われてしまいそうなので・・定番の格好良さそうなヘッジファンドストラテジーもファンドによっては使われています。
ざっくりとだけ、まとめますね。
これでもややこしいので読み飛ばしても大丈夫です。
- ロング・ショート:強気銘柄の買い。弱気銘柄の空売り。上述のとおり。
- マーケット・ニュートラル:相場全体の変動の影響を抑制し、個別銘柄を源泉とするリターンだけを獲得する手法。例えば強気銘柄をロングし、日経平均、TOPIX先物などをショートする。個別銘柄が先物よりも上昇が大きい或いは下落が少なければ利益となる。
CBアービトラージ:CB(転換社債)のロング、同銘柄株式のショートを組み合わせる戦略。CBの値動きと株式の値動きの差異を利用し、株価の上下両方の値差を収益機会とする。詳細は割愛。 - イベント・ドリブン:対象銘柄の買収、破産などのイベントを収益機会とする戦略。M&A公表の際に市場株価と買い付け価格の値ザヤをとるM&Aアービトラージ、破綻懸念企業の債券ロング、株式ショートを組み合わせるディストレト証券ストラテジーなどがある。
誰の資金を運用しているか
ヘッジファンドに資金を預けているのは、主に以下の人や機関です。
- 個人富裕層
- 企業年金
- 金融機関
ヘッジファンドは通常「私募」形式で49人以下に対して募集を行います。
運用資産が大きくなり過ぎると支障が出たり、パフォーマンス開示のコストなどもかかってくることから間口を限定することが殆どです。
当然ですが、募集の際も広く一般には声がかかりません。
また、資金委託者への守秘義務もありますし、秘密主義でファンドの中身や方針などを表に出すこともありません。
たまに個人向けに、ヘッジファンドに投資する投資信託が販売されることがありますが、ダイレクトにヘッジファンドにコンタクトできることはほとんどありません。
ヘッジファンドは株式市場に影響を与えるか
株価が不思議な動きをすると、ヘッジファンドの仕業かと言われることが度々あります。
正直分かりません・・・が、相場全体が大きく動くときにヘッジファンドの仕業というのはまずないのではないかと思います。
ヘッジファンドは、他の機関投資家と比べると断然規模が小さく、借入を使って思いっきりレバレッジをかけてもマーケットを大きく動かすほどのパワーはありません。
ただ、個別銘柄についてはヘッジファンドが値動きをつくることもあるかと思います。
銘柄の売買代金によって異なりますが、日々の売買代金が数十億円程度であればダイナミックな売買を行えば株価が動くことは全然あり得ます。
多くの機関投資家はロングオンリーといって買い持ちしかできないことが多いですが、ヘッジファンドは空売りも積極的に活用するので売り崩れるきっかけになることもあるでしょうし、逆に空売りの買戻しで大きく上昇するといったこともあり得ます。
もちろん証拠が取れる話しではありません。
推測というか鼻を効かせるくらいの話しです。
まとめると、
「ヘッジファンドが、相場全体を動かすことは難しい」
「個別銘柄なら、ヘッジファンドの商いで株価が動くこともあり得る」
という私見です。
大口の個人投資家や海外投資家などにも当てはまることなので、ヘッジファンドだけのことではありませんが資金の性質上少なからず影響はあると考えています。
昨今、耳目を集めている「アルケゴス」のような勢力はここでは対象にしていませんので悪しからず。
ヘッジファンドで働く人達
ヘッジファンドで働いている人にフォーカスしてみたいと思います。
年収
ヘッジファンドの年収はピンキリです。
創業者で社長兼プレーヤーのような人は、数億円稼いでいることもあります。
その年のパフォーマンスや個々人の契約によって、様々ですが1,000万円台~数千万円が多いかなという印象です。
代表者やキーマンの裁量で処遇を決めやすいので、パフォーマンスによっては青天井でボーナスが出ることもありますし、ほとんど出ないこともあると聞きます。
ただ、他の機関投資家や証券会社から引き抜かれて転職するケースがほとんどなので、それらよりも少し高いくらいは下限としてあると思います。
経歴
運用会社、信託銀行などの機関投資家から移籍するケース、証券会社のセールスやアナリストから転身する場合がほとんどです。
株の運用関連の経験を積んだ後に、直接引き抜かれて転職している人が多いです。
元々、ヘッジファンドの人と仕事で関わっていたり、元同僚だったり、知り合いだったりすることが多いですね。
ヘッジファンドを創業する人もこのような経歴が多いです。
実力を認め合う旧知の人が寄り集まり、場合によってはファンドの資金を出し合って設立したりします。
付け加えると、ヘッジファンドはお客さんの資金だけでなく、役職員のお金も同じファンドで運用することがよくあります。お客さんと同じ船に乗って、責任感をみせることが信頼につながります。
性格・キャラクター
個性的な人が多いかな。
しかしまあ、市場関係者全般に個性的な人が多いので、ヘッジファンドに限ったことではないです。
ただ、世間のイメージと違って(?)、嫌な奴は少ないです。
30-50代後半くらいの人が中心で、仕事の上では丁寧な人が多いです。
ヘッジファンドは、大きな運用会社とは異なり、孤立したり、嫌われたりすると情報が入って来ず困ることになるので、気を付けている部分もあるかと思います。
個性的であっても、常識的な人が8割です。
クビと隣り合わせ
ヘッジファンドは組織や基盤が小さいので、一人のファンドマネージャーにかかる責任が非常に大きいです。
そのため、パフォーマンスが悪いと会社全体の経営に響きやすいです。
結果が芳しくないことが続くと、会社がもたないのでいられなくなることもあります。
潰れるヘッジファンドもありますしね。
また、小所帯かつ創業メンバーやキーマンの力が非常に強いので、嫌われると厳しいです。
その辺は、多くの中小企業と同じで直接、間接・・・退職を迫られても不思議ではありません。
いずれにせよ、上手くいけばがっつり稼げますが、リスクと隣り合わせです。
ヘッジファンドをよく知れるおすすめ本
「ヘッジファンドの真実」
元ヘッジファンド設立者、ファンドマネージャーの著者が執筆。
長年証券アナリストを務めた後、独立しヘッジファンドを創業。
一般的な説明だけでなく、ヘッジファンド内部や証券アナリストの業務など、豊富な経験を踏まえて書かれています。
少し難しい部分もありますが、専門知識がない人が、飛ばしながら読んでも全然面白いと思います。
「ヘッジファンド運用入門」
ヘッジファンドの運用について勉強したい人向け。
入門と謡いつつ、結構詳しく書かれています。
金融の基本知識がないと読むのがしんどいかも知れません。
ちょっとガチめな人向けですが、一冊でヘッジファンド運用の大枠が掴めます。
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