アナリストランキングの仕組みと裏側。ランキングは信用できるのか?

金融業界
某アイドルグループのごとく、証券アナリストにも人気投票があります。
 
証券会社の広告やホームページに登場することも多く、ひとつの宣伝ツールとなっています。
ただアナリストランキングの存在は知っていても、どうやってランキングされているか知らない方がほとんどだと思います。
 
また、何となくランキング1位のアナリストが勧める株が良さそうな気がするかも知れませんが、本当に信用できるのでしょうか。
 
ごく一部の世界で行われているアナリストランキングについて、裏側も含めてご紹介します。
 

アナリストランキングは日経ヴェリタスとI Iの2種類

まず、メジャーなアナリストランキングは2つあります。

日経ヴェリタスのランキングInstitutional Investor誌のランキング(略してII(アイアイ)と言います。以下IIと書きます)です。

前者は皆様ご存じ、日経が出している投資情報誌が主催するランキングです。昔の日経金融新聞ですね。

後者は証券会社のホールセールの人か機関投資家でないと知らないと思います。名前の通りでやや機関投資家寄りの運用に関する専門雑誌です。
(機関投資家のことを英語でInstitutional Investorと言います。説明いらないかもですね。。)

こちらのランキングの場合は、いくつかある部門のうちの日本株部門といった位置付けです。

ボクシングでいうとWBAとWBCみたいな感じです。

一般的に有名なのは日経ヴェリタスランキングですが、関係者の間ではIIのほうが格式が高いと言われています。

パーフェクトは当然、二階級制覇することです。

両者のランキングとも順位は似通っていますが少しづつ違いが出てきます。
証券会社としてはどちらも取りに行くか、片方を重視するか等広告戦略があります。

どちらのランキングにも、証券会社別ランキングアナリスト個人別ランキングがあります。
団体戦と個人戦です。団体戦は個人得点の合計です。

個人戦には、自動車や電機、医薬品とかのセクター別ランキングとセクターの括りなしで競う総合ランキングがあります。ボクシングの例えしつこいですが、階級戦無差別級といったところです。

また、日経ヴェリタスとIIでは、セクターの括り方が異なり、アナリストによっては自分の担当とぴったりのセクターが無かったりします。
それから複数のアナリストが同一セクターで被ってしまう証券会社もあります。ぴったりのセクターがない場合は、仕方ないのでやや守備位置が違ってもそこで出馬するしかないです。

 

複数のアナリストが同一セクターで被った場合は、例えば二人で被ればどちらかが上位にいくように立てるアナリストを決めます。
上位ランカーにポイントが厚く配分される仕組みになっている為、証券会社は票の食い合いをするよりも一人を上位に送り込みたいのでどちらか一方に票を寄せる戦略を取ります。

投票締め切りは日経ヴェリタスが1月末か2月上旬に締め切り、IIは1月中に締め切りだったと思います。投票期間は大体3週間くらい。
結果発表は、日経ヴェリタスは4月1週目のヴェリタスに掲載されます。IIはその1-2週間後くらいです。

投票者は機関投資家

アナリストランキングの投票者は機関投資家のファンドマネージャーとアナリストになります。

アナリストも投票というと分かりにくいと思いますが、証券アナリストには2種類あり、
証券会社に所属するセルサイドアナリストと機関投資家に所属するバイサイドアナリストがいます。
 
前者が後者に対してサービスをします。
 
投票対象になるのはセルサイドアナリスト投票するのはバイサイドアナリストです。
また、投票者は日経ヴェリタスのランキングは殆ど日本人でIIは外国人も投票します。

それと両者では1票の格差があります。日経ヴェリタスは皆同じ1票を持ちますが、IIは会社の運用資産規模によってウエイトづけされています。運用資産規模が小さい会社の社長兼任ファンドマネージャーよりも資産規模が大きい会社の1年生のほうが点が高いのです。

この点で、どちらのランキングも上位を狙うより片方に集中したほうが効率的ということで一方だけを狙う証券会社もあります。
例えば、投資家に広くサービスしていなくても、特定の超大手投資家にだけ注力している証券会社はIIに特化したほうが効率的ですからね。
それから運用資産規模が大きいけれども、売買がとても少ない保険会社は今や証券会社にとってはいいお客さんではありませんが、この時ばかりは効率的にランキングの点数稼げるとあってチヤホヤされます。
あくまでアナリストの実力を図るものではなく、証券会社の宣伝活動です。

余談交じりになりましたが、ここまでが基本的なルールです。

機関投資家についての説明はこちら↓
【機関投資家の種類】わかりやすく株のプロの世界を解説

アナリストランキングは大企業への宣伝効果を狙っている

しつこいですが、証券会社がアナリストランキングに取り組む目的は宣伝のためです。

では、誰に向かって宣伝しているのか?
上場企業を中心とする大手企業にアピールをしています。
全国の個人投資家へのアピールも多少はありますが、メインターゲットは大手企業です。
アナリストが個人投資家にアイデアを提供する訳ではありませんので。

証券会社は自費で広告を打つよりも、第三者機関がやっているランキングで上位になったという客観的で分かりやすい謳い文句が欲しいのです。

投資銀行部門が上場企業にファイナンスの提案に行く際に、アナリストランキング上位で投資家に評価されていますと宣伝したり、事業法人営業が株式や債券を薦める際にランキング上位のアナリストを抱えていて情報が豊富ですと宣伝したりします。

大企業はファイナンスの際に起用する証券会社を選ぶのに社内で稟議を通します。この時に客観的と思われることが言えると通りやすくなります。

このように大企業向けビジネスへ繋げようと取り組むのです。
宣伝材料を提供することでその証券会社内での担当部門の評価が上がり、社内での発言力が強まることは確実です。
 

アナリストランキングは機関投資家へのサービスが基本となる

各証券会社は機関投資家に投票のお願いをするわけですが、機関投資家にとって投票はどのような意味があるのでしょうか。
割とどうでもいいものです・・・
ただ狭い世界ですので、各証券会社やアナリスト本人達と仲良くやっていきたい思いはあります。
その為、波風が立たないように誰に投票したかはぼかしています。
投票も義務ではないので誰にも投票しないのもありですが、無投票の数は証券会社が日経やIIに問い合わせれば知れてしまうので、誰かには1票入れる人がほとんどです。
では、どうやって投票するアナリストを選ぶのか。

機関投資家は、基本的には自分によくサービスしてくれたアナリストに投票します。
サービスというのがミソです。いいレポートを書いた、いいアドバイスをしたとは言ってません。

勿論そういった要素もありますが、取材ツアーに連れていったり、セミナーのお世話をしたり、投資先企業との間をつないだりメシを食ったりゴルフをしたり全部含めてサービスです。

どんなサービスをどれくらいするかはアナリストによって全然違います。
変な話、ツアーコンダクターみたいなアナリストやイベント企画屋みたいなのや接待ばかりのアナリストもいます。もちろんレポートで勝負する職人肌のアナリストもいますし、スタイルは色々です。
悲しいかな上司の指示にもよったりします。
まあ何をするかはともかくとして、1年間のサービスの合計がまず投票して貰う土台になります。

投票直前の駆け込みサービスやお願いで最後の一押し

投票の2-3ヶ月前あたりから選挙戦は本格化します。

基本は上記の通りサービスがベースになりますが、機関投資家である運用会社毎に投票ルールが異なりますので、それを把握した上で各ファンドマネージャーやアナリストの票田の大きさに応じて攻勢をかけていきます。
運用部長など特定の人に権限が集中していたり、各担当者に委譲されていたりします。
権限が集中してる場合、その人のもとには攻勢が集中します。。。

投票前になると、票を持っている運用会社の管理職、ファンドマネージャー、アナリストのもとには、証券会社のアナリストやセールスから駆け込みのミーティング食事の誘いなどが増えます。接待は禁止されている運用会社もあるのでどこまでやるかはなんとも言えませんし、抜け道もありますので、ケースバイケースです。

また、投資家によって投票への関心度が大きく異なります。
というより関心が極端に薄い人が結構います。
狙い目にされるのは関心がない人です。

ランキングなんかどうでもいいので、頼まれたら誰でも入れてあげるよとなり易いです。

その他には、各運用会社の声が大きい人もターゲットになります。
言わずもがな落とせば大票田ですので、声が大きい人詣でもあるとかないとか・・・

あと、ほぼ必ず行われているのがトップ外交です。
証券会社の部長、役員クラスが運用会社の部長、役員へお願いにあがります。
特定の証券会社が上手く握った場合は、現場のファンドマネージャー、アナリストに勅令が降りて投票先が決まったりします。

それと同じグループの運用会社はほぼ例外なく同グループの証券会社優先投票します。
○○アセットマネジメントは○○証券へ投票してるのかと思って貰ってほぼ間違いないでしょう。

このような感じでアナリストランキングは投票が行われています。
新年の挨拶と一緒にお願いメールが飛び交ったり、新年会と称してお願いの宴席が設けられたり、というのもある意味風物詩です。

また、投票されるアナリストにもランキングに関心がある人とそうでない人がいますので、皆が1位になって大喜びしているかというとそんなことはありません。
当然ですが、選挙活動する暇があったらレポート書きたい人もいるのです。
 

まとめ

  • 代表的なアナリストランキングは2種類。日経ヴェリタスアナリストランキングとInstitutional Investorアナリストランキングがある。
  • 投票者はどちらのランキングも機関投資家のファンドマネージャー、アナリスト、管理職。
  • 証券会社は主として大企業への宣伝のためにアナリストランキングに取り組む。
  • アナリストランキングの投票基準は1年間の機関投資家へのサービスがベースとなる。サービスの種類は多岐に渡り、アナリストによって異なる。
  • 投票直前になると証券会社は票田となる機関投資家へ駆け込みサービスやお願いをすることが多い。
アナリストランキングは大人の事情が反映されてしまいますが、ある程度実力を反映してる部分も残ってはいます。他社へ移籍してもずっと上位にいるようなアナリストは実力が評価されているケースも多いです。
いずれにせよ、ムラの住人以外には分かりにくい世界です。アナリストランキングはそのまま信じるのではなく、楽しみ程度に見ましょう。

 

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