アナリストはいらない? 証券アナリストは消える運命か

金融業界
証券アナリストの存在意義が厳しく問われている。
企業を調査し価値を分析する専門家であるが、今、彼らは「アナリスト不要論」の台頭に直面している。
証券アナリストの業務のリアルな姿となぜ不要と言われているのかをお伝えしたい。
 

アナリストの業務は機関投資家へのサービス

証券アナリストの業務といえば、デスクに座ってひたすら分析してレポートを書く、ニュース番組などに出演するといったイメージが強い方が多いのではないだろうか。

もちろんそれらも主体となる仕事であることに変わりはないが、顧客である機関投資家へのサービスがメインとなる。レポートも機関投資家の為に書いているし、執筆のために四半期毎に企業取材を行う。また、サービスの内容は、外部セミナーの企画運営、取材ツアーのアテンド、人によっては接待まで諸々ある。

話しを明確化するため、先にアナリストの立場は二通りあることを説明したい。
アナリストと言えば証券会社のアナリストを思い浮かべるだろうが、業界では彼らはセルサイドアナリストと呼ばれており、顧客であるバイサイドアナリストやファンドマネージャーの為に仕事をするのである。

セルサイドアナリストとはその名が示す通りサービス売る側のアナリストであり、
バイサイドアナリストは機関投資家(運用会社、信託銀行等)などでサービスを買う側のアナリスト
である。

その料金は直接サービス料という名目では支払われていないが運用会社が証券会社に落とす売買手数料で間接的に支払っているのである。

要するにセルサイドアナリストは、手数料を獲得する為に機関投資家へサービスを提供するのが仕事である。

アナリスト不要論に直面しているのはこのセルサイドアナリストである。

機関投資家側でもバイサイドアナリストが調査をしているが、セルサイドアナリストはバイサイドアナリストやファンドマネージャーの為に参考となるレポートを公表したり、企業取材に連れていったり、企業経営者を招いてのセミナーを企画したりと機関投資家へ運用に関わるサービスをする。

レポートには“売り”、“買い”といった評価を付けるが、機関投資家に参考にしてもらう為であり、機関投資家は売りのアナリストの意見と買いのアナリストの意見両方を聞いて思考のバランスを取るのである。

また、バイサイドアナリストやファンドマネージャーは人によってどのサービスを大事にするかは異なるので、分析に優れないセルサイドアナリストでもツアーを沢山企画したり、投資家が企業に対して聞きにくい事を代わりに聞いたり接待をして生き残る便利屋に徹するタイプも存在する。

機関投資家についての説明はこちら↓

【機関投資家の種類】わかりやすく株のプロの世界を解説

売買手数料明確化と企業取材ルール厳格化がアナリストを追い込む

なぜ、セルサイドアナリストが消滅の危機にあるのか。

理由は主に2つ。

  1. MiFID2(欧州第二次金融商品指令)により、手数料が明確化されること
  2. フェアディスクロージャールール導入により、決算予想ができなくなること

MiFID2による影響

MiFID2は2018年1月から導入されたルールであり、これによって機関投資家は証券会社に支払う手数料の内訳を開示することが求められる。

今までは機関投資家は証券会社から受けた全てのサービスを点数化して証券会社をランク付けし、上位から順に売買注文を出してきた。つまり、受けたサービスは全て纏めて売買手数料で支払うという方法だ。MiFID2導入により機関投資家は資金を預けてくれる顧客に対し、手数料は売買注文にかかるものとリサーチなどのサービスにかかるものに分けて開示することが求められる。リサーチ費用が裸になればより効率化が求められ、証券会社を選別する動きが強まり、取引証券数も減ることになる。機関投資家はコストを下げる為、自身でできる企業取材のアレンジや基本的なリサーチなどは証券会社にアウトソースしない動きになる。

 

深いリサーチや鋭い見解などどうしても参考にしたい部分にのみコストを払う流れになり、必要とされる人は減り、リサーチで価値を出せるアナリスト等ごく少数が生き残る形になるだろう。MiFIDⅡは、欧州で導入されるが一部は全世界が影響を受けることになり、またこれは主要国にはそう時間を空けず広がるだろう。

MiFIDⅡについて、詳しくはMiFIDⅡによって金融業界はどう変わるかを考えるを参照頂ければと思う。

フェア・ディスクロージャー(FD)・ルール導入による影響

2018年春に国内で「フェア・ディスクロージャー(FD)・ルール」が導入された。

企業がアナリスト等に未公表の重要情報を伝えた際にすぐに公表を求めるもので、端的に言えば何か重要なことを伝えるときは全ての人に同時に公表しなさいということだ。

アナリストは、四半期決算前に企業に取材に行き、大よその決算数値にあたりを付けに行っていた。これを機関投資家に伝えレポートも書いていたのだが、今後は規制されることになる。

レポートは顧客である機関投資家にしか渡していないし、(取材日程はなんとなく分かるので)機関投資家から問い合わせが来る場合もあり、取材に行ってしまうとFDルールを遵守するのは難しい。

四半期決算前の取材は、機関投資家からすれば事前に決算数値にあたりがつけられるので便利であったし、逆に他の投資家が証券会社から聞いている以上、知らなければ不利になる情報だ。各アナリストはこれをもとに決算予想をつくり投資家に提供しており、投資家はそのうち2、3人程度と議論して決算を材料にした売買を考えたりしていた。

ほぼ全てのアナリストが実施しており、早く聞いて来るのが得意なアナリストもおり、はっきりとした数字でないにせよ決算の雰囲気などを伝えることでアドバンテージをとるタイプもいた。

アナリストはこれができなくなり、決算予想の精度も当然下がる。短期業績の予想がしづらいとなると、他に価値を求めなくてはならない。担当業界の深堀レポートや中小型株を数多くカバーする方法など各証券会社やアナリストは付加価値づくりに躍起になっている。

長期での業界動向や競争力の源泉に踏み込んだ企業価値の予測など、リサーチャーとしての本分で勝負できる状況になってきたともいえるので、ここに拘りを持ってきたアナリストには追い風だろう。

逆に短期業績の予想や早耳情報で稼いできたアナリスト、取材アレンジ等のサービスや接待で生きてきたアナリストには厳しい状況となるだろう。

一部のアナリストには価値が残るが、多くのアナリストが失職する時代になるだろう。

まとめ:価値あるアナリストでないと生存が厳しくなる

  • アナリストにはセルサイドアナリストとバイサイドアナリストの2つの立場がある。厳しい状況になるのがセルサイドアナリスト。
  • セルサイドアナリストの業務は顧客である機関投資家のバイサイドアナリストやファンドマネージャーにサービス提供を行うこと。サービスの種類はリサーチ提供以外にも取材ツアーやセミナー実施、接待等々まである。
  • 機関投資家が証券会社から受けたサービス対価は売買手数料として支払われてきた。しかし、機関投資家は手数料の内訳を明示することが求められるようになり、運用コストに敏感になった。
  • また、上場企業は全ての投資家が同時に情報取得できることを求められるようになった。これによりセルサイドアナリストが毎四半期決算前に行っていた取材ができなくなってきている。自分達だけが得られていた情報が入らなくなり、それ以外に独自の価値を生み出すことが必要となった。
  • 便利屋的な働きを軸にしてきたり、情報取得スピードで勝負してきたアナリストは生き残りにくい環境となっている。
  • オリジナルな示唆が与えられるアナリストでないと生存が厳しい状況となってきた。

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