【東証新市場区分をガイド】市場再編の全容とスケジュール(2021年1月時点)。東証一部はプライム市場に

株式投資

2022年4月から東証の市場区分が一新されます。

現在はそれに向けての移行段階となっており、2020年12月下旬に東証から再編に向けての考え方とスケジュールが示されました。

それまでも大枠の考え方が示されたり、議論が進んでいましたが、2020年末の東証からの発表により市場再編に向けての動きが本格的に加速してくるものと思われます。

東証市場再編の内容、プロセスを整理しておきたいと思います。

□この記事でわかること
  • 東証の新市場区分とそこに上場する銘柄の条件
  • 新市場区分のポイント
  • 現状から新市場区分への移行スケジュール
  • なぜ市場再編を行うのか。その目的・理由
この記事が役に立つ人
  • 市場区分について理解しておきたい投資家
  • 株式投資の基礎知識を手早く得たい人
  • 上場会社で財務、IRを担当する人
  • これから上場を目指す会社の経営者、財務担当者

東証の新市場区分

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まず、再編によって、どのような市場区分になるのかを整理します。
知っとかないと困ることだけ分かれば十分という人も、これだけはおさえておいてください。

上場銘柄は、下記の3市場に区分されることになります。

プライム市場 ~日本を代表する最上位市場~

最上位に位置するのがプライム市場です。
従来は東証1部が最上位市場でしたが、上場会社数が2,000銘柄超と全上場企業の半分以上にもなります。

プライム市場を創設することで、本当に日本を代表する銘柄のみに絞り込むことを意図しています。
基本的にほぼ全ての上場会社は、基準を満たせるのであればここに位置したいと考えます。

東証は、プライム市場の定義を示しており、要約すると下記のようになります。

【プライム市場の定義】

  • 多くの機関投資家の投資対象となりうる規模の時価総額(流動性)を持つ
  • より高いガバナンス水準を備える
  • 投資家との建設的な対話を中心に据えて、持続的な成長と中長期的な企業価値向上にコミットする

上記のような企業を対象とする市場

東京証券取引所公表資料より引用

要するに、比較的大型の銘柄で、外部からみて企業統治がしっかりしていて、投資家に対してオープンなコミュニケーションができる会社ということになります。

上場基準としては、こちらの形式基準が設けられています。

【流動性】(上場時見込み)

  • 株主数:800人以上
  • 流通株式数:20,000単位以上
  • 流通株式時価総額:100億円以上
  • 時価総額:250億円以上

【コーポレートガバナンス】(上場時見込み)

  • 流通株式比率:35%以上

【経営成績・財政状態】

  • 経営成績:下記AまたはBいずれかを充たす
  • A.利益実績:最近2年間における経常利益の総額が25億円以上
  • B.売上実績:最近1年間の売上高が100億円以上かつ上場日における時価総額が1,000億円以上
  • 財政状態:純資産が50億円以上

東京証券取引所公表資料より引用

従来の東証1部の上場基準(後述)と比べて大変厳しいということもないですが、これらを充足できない企業も結構あります。

スタンダード市場 ~上場企業としての基盤を満たす中堅市場~

つづいて2番手に位置する市場。スタンダード市場です。
従来の東証2部およびJASDAQスタンダードに相当します。

プライム市場に位置できないまでもそれに準じる、或いはプライム昇格をうかがう銘柄群です。

スタンダード市場の定義は、こちらになります。

【スタンダード市場の定義】

  • 公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持つ
  • 上場企業としての基本的なガバナンス水準を備える
  • 持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする

上記のような企業を対象とする市場

東京証券取引所公表資料より引用

要するに、円滑に売買ができる程度の流動性があって、投資家に信頼されるだけの企業統治体制を有していることが求められます。

プライム市場が一歩進んだものを求めてくるのに対して、スタンダード市場は基本的な点を満たしていればひとまず位置できるイメージです。

上場基準としては、こちらの形式基準が設けられています。

【流動性】(上場時見込み)

  • 株主数:400人以上
  • 流通株式数:2,000単位以上
  • 流通株式時価総額:10億円以上

【コーポレート・ガバナンス】(上場時見込み)

  • 流通株式比率:25%以上

【経営成績・財政状態】

  • 経営成績:最近1年間における経常利益が1億円以上
  • 財政状態:純資産が正

東京証券取引所公表資料より引用

上場企業としては、決して厳しい水準ではないですが、多くの投資家が安心して投資するためには充足して欲しいレベル感です。

グロース市場 ~高成長が期待されるチャレンジ市場~

3番手の市場がグロース市場になります。
従来のマザーズおよびJASDAQグロースに相当します。

新興市場として、高成長が期待される企業群を対象としています。

グロース市場の定義は、こちらになります。

【グロース市場の定義】

  • 高い成長可能性を実現するための事業計画がある
  • その事業計画の適切な開示が行われ、一定の市場評価が得られる
  • 一方で、事業実績の観点から相対的にリスクが高い

上記のような企業を対象とする市場

東京証券取引所公表資料より引用

要するに、今現在では事業リスクがやや高くとも、将来的な成長が期待される企業が対象です。
ややリスクはあるけれども、夢が見れる企業といったところでしょう。

プライム市場、スタンダード市場と比べると上場のハードルは低いです。

上場基準としては、こちらの形式基準が設けられています。

【流動性】(上場時見込み)

  • 株主数:150人以上
  • 流通株式数:1,000単位以上
  • 流通株式時価総額:5億円以上

【コーポレート・ガバナンス】(上場時見込み)

  • 流通株式比率:25%以上

【その他】従来のマザーズの形式基準と同様の基準を設ける。
 具体的には、

  • 事業継続年数:1年以上
  • 時価総額:10億円以上
    など

東京証券取引所公表資料より引用

新興市場のため、厳しい水準ではありませんが、投資家はこうした位置づけを理解した上で投資判断を行うことが必要です。

従来の市場区分および上場基準

新市場区分に移行するまでの従来の市場区分は、以下のようになります。
上場の形式基準と合わせて列挙します。

【東証1部】(直接上場。主な項目)

  • 株主数:2,200人以上
  • 時価総額:250億円以上
  • 流通株式数:2万単位以上
  • 流通株式比率:35%以上

【東証2部】(主な項目)

  • 株主数:800人以上
  • 時価総額:20億円以上
  • 流通株式数:4,000単位以上
  • 流通株式比率:35%以上

【東京マザーズ】(主な項目)

  • 株主数:200人以上
  • 時価総額:10億円以上
  • 流通株式数:2,000単位以上
  • 流通株式比率:25%以上

【JASDAQスタンダード・グロース】(主な項目)

  • 株主数:200人以上
  • 時価総額:基準なし
  • 流通株式数:基準なし
  • 流通株式比率:基準なし

会社四季報より引用

新市場区分は、従来市場を参照しながら、整備が進めらています。

東証新市場区分のポイント

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新市場区分のポイントとしては、流通株式に意識が置かれていることです。

株式を見る時には、時価総額に目が行きがちですが、これには安定株主の保有分も含まれており、市場で売買されているボリュームとは異なります。

時価総額=株価×発行済株式数

ですが、発行済株式数の中には持合いによる安定株主が保有していて市場には出回らない分も含まれています。

時価総額ももちろん大切ですが、実際に市場に出回る流通株式時価総額を意識しているのが新市場区分の大きなポイントです。

流通株式時価総額は、

流通株式時価総額=株価×流通株式数

として算出します。

流通株式時価総額の基準を満たさなくては、上述した各市場へ上場することができません。

重要な点となる、流通株式数の定義は2020年12月の制度改正事項で示され、下記のようになりました。

流通株式数=上場株式数-(主要株主が所有する株式数+役員等所有株式数+自己株式数+国内の普通銀行、保険会社、事業法人等が所有する株式数+その他取引所が固定的と認める株式数)

ごちゃごちゃ小難しくて分かりにくいですが・・・要するに、

  • 発行済株式の10%以上保有するような大株主
  • 役員や会社と緊密な人
  • 自社株
  • 金融機関や取引先会社

等々、上場会社と近しい人が売らずに固定的に持っている株式は、流通している株式とはみなされない。ということです。

今回特にメスが入れられたのが、金融機関や取引先が保有するいわゆる「持合い」株です。

日本企業は銀行や取引先との関係から「持合い」が続きがちでしたが、この改正によって上位市場への上場を目指したり、維持するためには、株式持合いを解消する必要がでてきています。

日本独自の「持合い」の慣行が崩れれば、海外投資家が一段と投資しやすい市場になるとの狙いです。

新市場区分への移行スケジュール

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新市場区分へは2022年4月4日に一斉移行します。

2021年中に東証、上場会社とも準備を進めていきます。

新市場区分への移行スケジュール
  1. 2020年12月25日:「第二次制度改正」制度要綱公表
             新市場区分の全体像、上場会社の移行プロセス、経過措置等公表
  2. 2021年春~:「第三次制度改正」制度要綱公表
           コーポレートガバナンス・コードの改訂等
  3. 2021年6月30日:移行期準備
            上場会社に対して、新市場区分の選択に際し必要な手続き等を7月30日        までに通知
  4. 2021年9月~12月:上場会社にようる市場選択手続き
             新市場区分の上場維持基準と改訂コーポレートガバナンス・コードを         踏まえた選択
  5. 2022年1月中:移行日に上場会社が所属する新市場区分区分公表
           東証ウェブサイトにおいて公表
  6. 2022年4月4日:一斉移行日
           新市場区分への移行完了

    ※2020年11月1日に「第一次制度改正」として、従来の市場区分の新規上場基準・市場変更基準等に係る制度改正を実施済み

東京証券取引所公表資料より引用

上記のスケジュールに沿って、移行が進んでいきます。
2021年春のコーポレートガバナンス・コード改訂によって、各市場の上場要件が出揃いきる形になります。

1年超の期間を設けてはいますが、上場会社にとっては比較的短期間での移行になりますので、目先は基準を満たせない場合でも、基準クリアに向けた計画書を提出すれば希望市場に入ることも可能としています。

但し、これは急な対応を考慮した措置だと思われ、本質的に基準がクリアできない企業が計画書を提出しつづけても、近い将来その市場からは振り落とされるでしょう。

基本的にはこの期間のうちに、各市場ボーダーライン上の企業は基準クリアに向けてアクションを行うものと思われます。

 

市場再編を実施する理由・目的

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新市場区分への移行は、ここ数年来議論が続けられていた我が国株式市場の課題でした。

  • 最上位市場である東証1部の銘柄数が多過ぎること
  • 東証1部の中でも企業間の差が大きく、最上位市場に値するのか疑問符が付く銘柄も多いこと
  • 時価総額が大きくても、流動性を示す「流通時価総額」が十分でない企業も多いこと
  • 市場区分が細かく分かれているが位置づけが重複しており、事実上区分が不明瞭
  • 日本独自の「持合い」が根強く残っており、流通株式比率が低いこと

などから、市場全体としてのクオリティや真に開かれた市場とは言いづらい面があり、海外投資家らのマネーを十分に呼び込めていない面がありました。

また、コーポレート・ガバナンス改革を推し進める上でも流通株式比率を高め、投資家株主の意見が届く会社構造にしていくことが求められているのも大きな理由です。

他の先進国市場に劣らず、潤沢な投資マネーを呼び込める市場をつくり、また投資家との対話で企業経営をより洗練されたものにするために、こうした市場改革が推進されています。

しかし、まだまだ道半ばです。
いい方向には進んでいますが、先行きをじっくり見守っていきましょう。

 

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