株主のお金を効率的に増やしているかを測る指標として重要なROEですが、注意点もあります。
ROEは数値が大きいほうがいいのは間違いないですが、その理由が大切です。
ROEは上場会社側である程度数字をつくれてしまうという問題点もあり、投資判断にあたってはROEの質を見極める必要があります。
ROEの問題点
ROEの問題点は、財務状況が不安定な会社がよく見えてしまうこと、上場会社側で数字がつくれてしまうことにあります。
ROEの計算式から少し考えてみましょう。
ROE(%)=当期純利益÷株主資本×100
つまるところ株主資本に対する当期純利益の割合でありまして、ROEの数値を大きくしようと思うと二つ方法があります。
ひとつは、当期純利益を今より沢山稼ぐこと。
もうひとつは、株主資本を減らすことです。
前者は、一時的な要因を除いては基本的には稼がないと実現できませんし、ここは全力で頑張って貰いたいところです。
問題は後者です。
株主資本が少ない会社は、ROEの数値が高く出やすいのです。
株主資本が厚いほど財務の健全性は高いのですが、それが弱いとROEが上がるというトレードオフの関係があります。
赤字が続いて株主資本が毀損してしまっている会社や長年苦しい経営状態にある中で増資ができない会社などもROEは高く出やすいのです。
ROEが高いからと投資したはいいけど、その後破産なんてことになったら最悪です。
バランスが整った上で、ROEが高いのが良い会社です。
また、ROEが低い会社が数値をつくるケースもあります。意図的に株主資本を減らすのです。
増配や自社株買いを行うことで、株主資本の増加を防いだり、減少をさせたりするのです。
利益の中から配当した金額を除いたものが株主資本として積み上がるので、増配は株主資本の蓄積を防いだり、減少させたりする効果があります。
自社株買いも、企業が買った自社株は株主資本からマイナス計上されるので株主資本を減らすことになります。
自社株は将来的に消却されてなくなる(必ずしもそうではないが会計的な考え方)という考えがベースにあるのでそのような処理を行います。
増配や自社株買いは株主にフレンドリーなイメージですが、大切なのはそのバランスです。
そうした働きを促すのもROEのメリットではありますが、どういった考えで行っているのか将来稼ぐ力を削ってまで目先の数字をつくっていないかという視点を持つことが大切です。
ROEを三分解する「デュポンシステム」
ROEがなぜ高いのか、或いは低いのか、それを分析するには分解して考える必要があります。
ROEを三つに分解して検証していくと、背景にある理由がみえてきます。
この考え方は、米化学大手デュポンが経営管理に採用し、広まったことから、デュポンシステムと呼ばれており、下記の計算式によって、詳細が把握できるように整理されています。
ROE=売上高純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ
この3つのどれが高いか低いかは会社によって異なります。
仮に同じROE水準であっても、質が違ってくるのです。
それぞれ見ていきましょう。
まず、売上高純利益率。
売上高純利益率=当期純利益÷売上高
売上の内、どのくらいの割合が最終的な利益になっているかを測ります。収益性です。
基本的に、高ければ高いほどいいです。
ここが高くて、ROEが高い会社は評価できます。
いい製品をつくって、値引きする必要もないので、高く販売することができている会社である可能性が高いです。
つぎに、総資産回転率です。
総資産回転率=売上高÷総資産
持っている全ての資産を使って、どのくらいの売上をあげられたかを測ります。
資産は工場や車両、研究所等々ありますが、それらをどれだけ売上に貢献させることができたか、どれだけ効率的な商売ができているかを見ます。
仮に同じ資産を持っていれば、たくさん売上を稼ぐほうが優秀なマネジメントです。
無駄が少ない身が締まった企業と言えますね。
これも高ければ高いほどいいです。
最後に3つめが財務レバレッジです。
財務レバレッジ=総資産÷株主資本
総資産が株主資本よりもどれだけ多いかを見ます。
今回は、バランスシートの細かい話をするところではないので、大きな概念的に解説します。
企業のお金は、大きく分けて株主(自己)資本と他人資本に分かれます。
他人資本はすなわち借金です。銀行借入や社債等ですね。
株主資本の何倍の借金をして運営しているのかを把握します。
借入が凄く多い会社もありますし、逆に無借金の会社もあります。
これは注意が必要な数字です。
数値が大きい場合、それだけ財務的なリスクが大きくなります。
コロナウイルス影響もそうですが、外部環境の変化や何らかの要因で事業が思わしくない状況になった時の余力が小さくなってしまいます。
逆に特に理由なく借入が全くないのも、考えものです。
他人のお金を上手く使って、株主のお金をより大きく成長させて欲しいです。
何かの度に、株主のお金を集める(増資する)のではなく、自分(株主)は追加資金を出さずに利益だけ大きくしてくれたほうがいいですからね。
借金が大きすぎるとリスキー、小さすぎると効率が悪いとなりますからサジ加減が問われます。
サジ加減云々ではなく、生き残る為に銀行からカネを無心するしかない会社は厳しいです。
余程、戦略的な狙いがなければこうした銘柄は投資対象から外しましょう。
まとめると、売上高純利益率、総資産回転率は高いほどいい。財務レバレッジは高過ぎは危険となります。
売上高純利益率、総資産回転率に優れる会社は良い銘柄である可能性は高いです。
この二つが低くて財務レバレッジによってROEが高くなっている会社を間違って評価しないように気を付けましょう。
ROEの問題点・三要素の分解まとめ
- ROEの問題点は、財務状況が不安定な会社でもよく見えてしまうこと。会社側である程度数字がつくれてしまうため中身をよく見なければならないこと。
- ROEを三分解するデュポンシステムは、ROEの質を検証することができる。
- ROEは、売上高純利益率、総資産回転率、財務レバレッジに三分解して検証できる。
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