株式投資をやっている人なら、機関投資家という言葉に触れる機会もあるでしょう。
ただ、大きな金額を運用しているプロということはなんとなく分かるけど、実際に会ったこともなければ、どんな人達なのか、しっくりこないのではないでしょうか。
機関投資家とは、株を運用する会社で働く人達です。
そんなことは分かっている・・・と思いますが、その会社も幾つかの種類に分かれ、それぞれ運用に特徴を持っています。また機関投資家の人達にもポジションがあります。
目次
機関投資家の種類と特徴
機関投資家の種類を運用主体ごとに紹介します。
生命保険・損害保険
一昔前までは、海外投資家からも「ザ・セイホ」と畏れられ、大きな資金を動かし影響力がありました。
しかし、それもバブル前までの話。
現在では、運用部隊は縮小しています。
代わりに、傘下に運用会社を設けて、株式、債券の運用はそちらが主体になっています。
運用の特徴
生命保険、損害保険とも中長期的な目線で運用を行います。
そうした前提のもと、生保はより長期で資金を運用し、損保は比較的短い期間で運用を行います。
これは、それぞれが販売している保険の性質によるものです。
生保は終身や数十年単位の定期など長い期間での支払いに備えて、じっくりと運用します。
一方で、損保はそれに比べると支払いの発生時期も早くなることから、少し短めの期間での運用を行います。
また、株式市場全体への影響度は小さく、市場全体の売買代金0.1%~0.3%程度です。
(後述、主体別売買動向参照。)
- 日本生命
- 第一生命
- 明治安田生命
- 大同生命など
信託銀行
信託銀行は年金の運用を請け負っており、株式市場において注目されるプレーヤーのひとつです。
国民年金を運用するGPIF(年金積立管理運用独立行政法人)が多くの資金の運用を委託します。
GPIFの運用資産は2020年12月末で179兆円、そのうち日本株は45兆円にのぼります。
運用の特徴
信託銀行は、年金運用を受託していることからも長期目線で投資を行います。
一定期間同じトレンドを形成することが多いのが特徴で、数ヶ月に亘って売り越しが続いたかと思えば、反転して逆に数ヶ月間買い越しを続けたりといった動きがみられます。
これはGPIFの日本株資産割合に連動していると推測され、日本株が上昇して資産割合が高まれば売ってウエイトを下げ、逆に日本株が下げれば、買ってウエイトを上げる行動を反映しています。
ちなみにGPIFは、日本株、外国株、外国債券、国内債券を25%づつ保有する基本ポートフォリオを掲げていますので、この方針に沿ってリバランスを行います。
また、株式市場全体の売買代金の2%~7%程度を占め、売買の方向感も出ることから影響力は小さくないです。
- 三菱UFJ信託銀行
- 三井住友信託銀行
- みずほ信託銀行
- りそな銀行(運用面では信託銀行同様)
投資信託委託会社・投資顧問会社(アセットマネジメント)
機関投資家の数としては、投信、投資顧問が一番多いです。
皆さんご存知の投資信託を運用している会社になります。
日頃目にするのは海外もの投信が多いですが、直接自社運用している株式は例外を除いて日本株式のみです。
また、投資顧問は主に企業年金の運用を受託しており、委託者が違う投信とは勘定を分けています。
投信と投資顧問をひとつの会社でやっていることがほとんどです。
運用の特徴
投信・投顧は、全体としての特徴でこれといったものはありません。
というのも、色々な種類の投信があるように、コンセプトの異なるファンドを数多く運用しているからです。
成長株ファンド、割安株ファンド、高配当利回りファンド、特定のテーマ株ファンドなど、ファンドごとに運用方針が異なります。
但し、インデックスファンドは市況と同様に動きますし、個人投資家の投信購入、解約が集中する時は、その影響が売買動向に出ることがあります。
また、株式市場全体の売買代金の1.5%-5%程度を占めています。
- 野村アセットマネジメント
- 大和アセットマネジメント
- アセットマネジメントOne
- 三井住友アセットマネジメント
- 三菱UFJ国際投信
- ニッセイアセットマネジメント
- SOMPOアセットマネジメント
ヘッジファンド
ヘッジファンド・・・これは謎の存在ではないでしょうか。
いまひとつ定義が安定しない感じがしますが、実態として言うと運用を行う中小企業です。
中小企業といってもキレキレの人が集まっているプロフェッショナルブティックです。
(性格的に変わった人も多いですが、嫌な奴というわけではないです。そこは個人差。)
運用戦略や資産規模、それから資金を預けている人も企業年金、地方銀行、個人富裕層など様々です。
より詳しく知りたい人は、こちらの記事も参考にしてください。
「ヘッジファンドとは。イメージが沸くほどわかりやすく解説」
また、アクティビストも広義のヘッジファンドと言えます。
アクティビスト参考記事>>>
「日本市場の主要アクティビストファンドと投資先企業一覧。」
「【アクティビスト有名世界的ファンド一覧】活動・運用の特徴」
運用の特徴
ヘッジファンドの運用戦略は、他の機関投資家と比べてユニークです。
株式の買いだけでなく、空売りも仕掛ける「ロング・ショート戦略」を用いるファンドが多いです。
また、他の機関投資家が、TOPIXなどベンチマークを上回る運用パフォーマンスを目指すのに対して、多くのヘッジファンドは実額でいくら儲けたか、いわゆる「絶対収益」を目標にしています。ベンチマークに割負けることを許容される面はありますが、ベンチマークが下がった時でも収益獲得を求められます。
ヘッジファンドの売買動向は、市場統計で確認することは困難です。集計項目にヘッジファンドというものがありませんし、他の機関投資家と比べて小規模で、また秘密主義を徹底しています。
- フィデリティ・マネジメント・アンド・リサーチ
- Point72 Asset Management
- ホライゾン・アセット・インターナショナル
- ベイビュー・アセット・マネジメント
- レオス・キャピタルワークス
投資家別の売買シェア
参考までに投資主体別の売買シェアを紹介します。
また、売買シェアが最も大きい海外投資家もほぼ100%機関投資家であり、上記までに紹介したいずれかの形態に当てはまります。
- 生損保:0.2%
- 都地銀:0.1%
- 信託銀行:2.3%
- その他金融機関:0.2%
- 投資信託:1.9%
- 事業法人:1.0%
- 個人:26.0%
- 海外投資家:67.0%
- 証券会社:0.9%
機関投資家の役割分担・ポジション
機関投資家の運用者は、主に3つのポジションに分かれます。
会社により、ファンドマネージャーとアナリストを兼任することもあります。
ファンドマネージャー(FM)
その名の通り、ファンドに組み入れる銘柄を選定し、売買タイミングを指示する人です。
資産運用業界の花形。機関投資家内のヒエラルキー最上位。
会社によっては、ポートフォリオマネージャー(PM)、インベストメントマネージャー(IM)と呼んだりします。
各セクターに渡る幅広い知識と株式市場を俯瞰する相場観が求められます。
会社やファンドの方針によりますが、ひとつのファンドを一人のファンドマネージャーで運用するケースもあれば、複数のファンドマネージャーの合議によって運用する会社もあります。
最もストレートなキャリアだと、資産運用会社に入社するとアナリストからスタートして、数年かけてファンドマネージャーを目指します。
アナリスト(AN)
電機、自動車、化学、食品など個別のセクターを担当して、銘柄のリポートをあげる人です。
例えば、電機セクターのアナリストであれば、ソニー、パナソニック、日立、富士通等々業種内の銘柄に張り付いて業績や株価を予想し、レポートにまとめます。
大型株の動向をぴったり追いかけると同時に業種内の中小型株発掘も行います。
(会社によっては中小型は別に専門アナリストがいます。)
そこで集めた情報、練られた予想をファンドマネージャーに報告、推奨します。
ファンドマネージャーは各セクターのアナリストから吸い上げた情報や予想を活用して投資判断を行います。腕のいいアナリストほどファンドマネージャーからの信頼も厚いです。
また、証券会社に所属するアナリストもいますが、彼らは運用会社に情報・予想提供を行います。
かなり似た仕事になりますが、外部業者の立場から、運用会社に参考情報を与えてサービスをするのです。機関投資家のアナリストが(サービスを買う側の)バイサイドアナリストと呼ばれるのに対して、証券会社のアナリストは(サービスを売る側の)セルサイドアナリストと呼ばれます。
証券会社のアナリスト(セルサイドアナリスト)については、下記記事をご覧ください。
「アナリストはいらない?証券会社アナリストは消える運命か」
「アナリストランキングの仕組みと裏側。ランキングは信用できるのか?」
トレーダー(TR)
ファンドマネージャーが選定した銘柄を売り買いする人です。
個人投資家は、銘柄を決めると自分でネットから注文したり、証券会社に電話を架けて注文すると思いますが、機関投資家は銘柄選定と発注は分業です。
機関投資家は売買ボリュームが大きくなりますので、シンプルに指値、成行で注文していたのでは、自分の売り買いで株価が変動してしまったり、逆に欲しい株数が買えなかったりします。
マーケットへの影響を最小限に売り買いするだけで大変な手間がかかるのです。
そのため、銘柄の売買はトレーダーに一任されます。
トレーダーは、ファンドマネージャーから売りまたは買いの指示を受けると、売買手法や期間を見極めながら執行していきます。
いかに有利な価格で売買するか、出来高に対して大量の注文を最小インパクトかつ短い期間で処理できるかが腕の見せ所です。
ファンドマネージャーやアナリストとは、仕事の質が異なりキャリアパスも別ものです。
また、こちらも証券会社にもトレーダーがおり、機関投資家のトレーダーは、証券会社のトレーダーに連絡をとって執行を進めていきます。
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